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千ひろ (京料理 祇園四条)

決断は早かった。その日私は長岡京まで仕事で出かけていたのだが、京都駅の新幹線のホームで台風のため上り全線が運休になり、帰ることが出来ないと分かった瞬間に、京都で何か美味しい物を食べることに決めた。私にしてはめずらしく行動が素早かったせいか、一番の懸念である宿泊する所も、APAが買収したばかりの京都祇園ホテルを押さえることが出来た。あとはどこで食事をするかだ。私は迫って来る台風が気になりながらも、夕食のことを考えて幾分高揚した気持ちで新幹線のホームを後にした。

この台風で店が営業しているのか心配ではあったが、逆に客が少ないのか以前から一度行ってみたいと思っていた「千ひろ」にあっさりと席を取ることができた。泊まっている京都祇園ホテルからは、目の前の四条通を渡ればすぐだ。私は強くなって来た雨と風に傘を飛ばされないように気をつけながら、予約の時間の少し前に店の扉を開けた。外の悪天候にもかかわらず、店は半分以上の席が埋まっていた。カウンターに座った私はビールを飲みながら、これからの時間と空間を黙って店に委ねることにした。

出てくる料理は最初の皿から唸るほどに素晴らしかった。素材の味、出汁の味、調味料の味、それら全てがきまっているのである。何種類かの絵具を混ぜ合わせて行くと、それぞれの色がぴたりと重なる時があるが、そんな感じの料理であった。その一瞬前だとばらばらであり、その一瞬後だとぐちゃぐちゃになる、まさにその瞬間を捉えて皿の上に載せた料理である。また料理を盛る皿が素人目にも素晴らしいことが分かる。店によっては唐津焼や備前焼を使う店もあるが、京料理にはやはり京焼がよく似合う。まさしく目に舌に、至福の時間であった。

中でも驚いたのはお造りである。三つ葉の茎を刻んだものが、白身魚とまぐろに添えられて出てきた。私は椅子から飛び上がらんばかりに驚いた。盲点だった。わさびは大好きだが、時として繊細な魚の味を壊してしまうこともある。葱もまた強すぎる。とは言っても何もないと、例えばまぐろの脂味が口に溜まって、この場合も魚の味を十分に味わうことができない。しかし三つ葉の茎なら、薬味が出しゃばり過ぎることなく、必要に応じて口の中の脂を洗いながら、魚がもつ本来の味を楽しむことが出来る。私には想像もできなかったこの組み合わせで、「千ひろ」は私にとって忘れられない店になった。

気が付くと客の数も大分減っていた。知らぬ間に長居をしたようだ。たった今まで食していた料理の余韻に浸りながら、名残惜しい気持ちで会計を済ませると私は外にでた。京都流の長い挨拶に見送られながら細い路地を通り、四条通に出ると雨は止んでいた。台風はどこにいるのだろうか、と訝しがりながらゆっくりと道を渡ってホテルへと向かう。この夜の印象がよほど忘れ難かったのか、翌年もう一度、今度は家族と一緒に「千ひろ」を訪れることになる。

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No title

お店の感じを「ぐるなび」で拝見しましたが、
すばらしいですね。
個人的には、懐石より割烹のほうが好きなんですよ。
特に、こちらは日本料理のいいところを
しっかり伝承している感じがします。

自分もこういう店を愛でて、
日本文化のひとつとして残すのに
役立てる人間になりたいですわー。

Re: No title

> つかりこ様

最近は諸事情により京都から足が遠のいてしまっていますが、機会があればまた訪れてみたい店のひとつです。私はどうも名所旧跡よりも食べ物から入ってしまうタイプの人間のようで、その意味では京都の奥深い文化の一端に触れることができたように思えた経験でした。

これからもよろしくお願いいたします。
プロフィール

魔笛

Author:魔笛
大好きなものを綴った日記です

映画:ハリウッド映画からピンク映画まで
本:ジャンルを問わず小説が中心
食べ物:フランス料理とイタリア料理が好物
旅行:なかなか行けませんが欧州とアジアが好き

大好きなものを語る場合、時として辛口になることもありますが、愛情の裏返しということでご容赦下さい。また文中敬称略であることもご勘弁願います

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