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ビタミンF 重松清 (新潮文庫)

どんなに巨体の鯨でも大海の水を飲み干してしまうことなどできないように、はなから不可能であることは分かっているのだが、時々今までに書かれた全ての本を読んでみたいとか、今までに撮られた全ての映画を観てみたいだとかの野望に捕らわれることがある。直ぐに無理だということに気がついて次に行うことが優先順位を付けることなのだが、この行為こそが読書の楽しみ、映画を観る楽しみを自ら放棄していることを知って愕然とした気持ちになる。

私は本をそんなに速く読むことができない。月に読む数も限られている。自分にあとどれだけの時間が残されているのかを知ることはできないが、少なくても10年前よりは10年間短く、5年前よりは5年間短くなっているに違いない。それに引き換え読みたい本は多く、勢い意識的、無意識的に優先順位を付けて次に読む本を選んでいる。結果として同じような作家、同じような傾向の本ばかりが続くことになり、新しい発見という極めて幸福な読書体験の芽を摘んでいることになる。

自らが知らない間に定めていた枠から外れたものを読んでみようと本屋で物色して買ったのが重松清の「ビタミンF」である。多作のベストセラー作家であり、今では中学入試、高校入試にもよく出題されるという重松の本を私は一冊も読んでいなかった。「ビタミンF」に登場するのは思春期に差し掛かった子供を持った中年の父親が大半だ。自分と重なることも多いのだが、不思議なくらいに描かれる話に入って行くことができない。それぞれはとてもいい話なのだが、なにか絵空事のように思えて、よくできた話という以上の気持ちが沸かない。ほぼ100%今の自分とは無関係な状況である筈なのに、例えば大岡昇平の「野火」の主人公や、松浦理英子の「ナチュラル・ウーマン」の主人公の心情により深い同一感を覚えてしまうのはどうしてであろうか。

たった一冊の本を読んだだけでその作家の全てを判断してしまうことが余りにも早計であることは承知してはいるが、重松の本は私に読書の喜びを与えてくれることはなかった。それでも限りなく広い海へと一歩漕ぎ出すきっかけにはなったと思っている。その他伊集院静や森絵都の本も残念ながら重松の場合と同じく、至高の読書の時間を私には経験させてはくれなかったが、私の知らない新しい未読の作家へと進む道標の働きは十分にしてくれた。

大海の水を飲み干すことができないのであればせめて潮の間を泳ぎつつ、無限の本に浸って、文章の波に漂いながら、言葉に涯てまで流されて、この広い海で溺れてみたいと思うのである。
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No title

重松さんは、感性の海に泳がせるというような
文芸作家じゃないかもしれませんね。
でも、ヒット作ばかりです。
売れない作品が出るようになったら、また読んでみようかなー。

Re: No title

> つかりこ様

コメントありがとうございます。大した数も読んでいないので、重松清について偉そうになことは何も言えないのですが、確かにヒット作を連発していますね。次は映画の原作になった本を読んでみようかと思っています。

これからもよろしくお願いいたします。
プロフィール

魔笛

Author:魔笛
大好きなものを綴った日記です

映画:ハリウッド映画からピンク映画まで
本:ジャンルを問わず小説が中心
食べ物:フランス料理とイタリア料理が好物
旅行:なかなか行けませんが欧州とアジアが好き

大好きなものを語る場合、時として辛口になることもありますが、愛情の裏返しということでご容赦下さい。また文中敬称略であることもご勘弁願います

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