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ラ・サマリテーヌ (フランス共和国 パリ)

マット・デイモン主演の「ボーン・アイデンティティー」は、私にとって映画という観点からはさして記憶に残らない作品である。記憶喪失になった主人公であるジェイソン・ボーンが、自分のアイデンティティーを求めて苦悩していく様の描き方が中途半端であるため、なかなか感情移入できないまま時間だけが過ぎて行くうちに映画は終わっていた。記憶を失った殺し屋という設定の話であれば、むしろTVドラマ「セクシーボイスアンドロボ」の第一話である「三日坊主」の方が、自分はいったい誰なのだろう、いったい何をしたのだろうと悩む主人公の心情と、彼を取り巻く人たちの交錯をうまく描いていて記憶に残っている。パリを舞台にした「ボーン・アイデンティティー」について思い出してみれば、私が好きな箇所はただ一つ「ラ・サマリテーヌ」が映っていることだけのようだ。

いつも短いフランスへの旅行であったが、私にはパリを感じさせる忘れ難い風景が幾つかある。その中でも「ポン・ヌフ」から右岸側に見る老舗デパート「ラ・サマリテーヌ」は、大好きな光景である。屋上近くにアルファベットで記された「SAMARITAINE」の文字を見るたびに、今自分がパリに来ていることを実感することの出来る心のランドマークのような建物だ。それほど好きであったのに、実は私は一階の売り場をちらっと覗いたくらいでこのデパートには本格的に入ったことがない。素晴らしいと言われている屋上からのパリ市内の眺めも見たことがない。私はいつもいつも「ポン・ヌフ」の上に立って下からデパートを見ていた。

機会は一度逃せば時として取り返しのつかない失敗となる。結局は一度も中へと入らないまま、経営が悪化した「ラ・サマリテーヌ」は2005年に閉鎖となった。来年末の再オープンに向けて改修が進められているが、そこに昔と変わらない姿を見ることは無理であろうし、それではわざわざ手を入れる必要もない。ただリニューアルが終わった後は、デパートそのものだけではなく、「ポン・ヌフ」を含めた周りの風景も変わってしまうだろう。それがいい事か残念なことかは分からないが、あの時の私にとって「ラ・サマリテーヌ」と「ポン・ヌフ」は二つで一つを構成しており、どちらが欠けても成り立たない不可分の、忘れることの出来ない素晴らしい情景であった。

1991年に「ポン・ヌフ」を舞台にした、今もって私の心に深く残る愛すべき映画を完成させたレオス・カラックスは、その21年後に撮った「ホーリー・モーターズ」では、「ラ・サマリテーヌ」を舞台に選んでいる。私の大好きだったパリの二つの光景が、長い時間を経てカラックスの映画として再び揃うことになった。「ポーラX」以来のカラックスの帰還を歓迎しながらも、実はまだ見ていないこの映画を、大好きだった百貨店の姿と若かりし頃に訪れたパリでの出来事をゆっくりと反芻するように思い出しながら、一日も早く見てみたいと思っている。
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はじめまして

「ボーン・アイデンティティー」を見るよりも、原作となった新潮文庫のロバート・ラドラム「暗殺者(上・下)」を読むべきだと思われます。

退屈する暇のない読書時間をお約束いたします。

No title

あ、いいですねー、フランスでロケ地めぐりなんてお洒落で贅沢ですねー。
『ポンヌフの恋人』の風景、自分の気持ちでトレースしてみたいです。

Re: はじめまして

> ポール・ブリッツ様

はじめまして。コメントありがとうございました。残念ながら「ボーン・アイデンティティー」は私の嗜好とは合いませんでしたが原作は全く別のようですので、今読んでいる三冊の本、「鏡花短編集」と「父の詫び状」と「ブラウン神父の童心」を片付けたら読んでみたいと思います。でもその前にポール・グリーングラスに期待して「ボーン・スプレマシー」と「ボーン・アルティメイタム」を見てしまうかもしれませんが。

これからもよろしくお願いいたします。

Re: No title

> つかりこ様

自分の中に「思い出」と言うフィルターを一枚掛けながら映画を見ることが正しいかどうか分かりませんが、次にレオス・カラックスを見る時は、おそらくそんな風な見方をしてしまうと思います。

コメントありがとうございました。これからもよろしくお願いいたします。
プロフィール

魔笛

Author:魔笛
大好きなものを綴った日記です

映画:ハリウッド映画からピンク映画まで
本:ジャンルを問わず小説が中心
食べ物:フランス料理とイタリア料理が好物
旅行:なかなか行けませんが欧州とアジアが好き

大好きなものを語る場合、時として辛口になることもありますが、愛情の裏返しということでご容赦下さい。また文中敬称略であることもご勘弁願います

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